CIMA LABORATORY

雑誌「空間-ku:kan」で連載されている「ニシマルchat!」
株式会社光和の西様と弊社の石丸が映像機器について語り尽くします。

映像のチカラが生み出す空間の魅力

映像はおもしろい。わかりやすい。そしてムズカシイ。プロジェクションマッピング、3D、4K、VR・・・次から次へと新しい技術が生まれ、私たちの日常に入り込んで目の前の世界を一変させる。どストレートに大きな驚きと感動を与える。デザイナーと呼ばれる人たちの手から生まれる感性が、私たちの生活や社会を豊かにしてくれるように、映像を操るプロたちの鋭敏な感覚もまた、私たちを一瞬で別世界に連れて行く。そしてデザインというアビリティが特別なチカラであるように、映像を扱い、操ることは、私たち素人にはできない。目の前の感動の仕組みや舞台裏の緊迫を理解することはできない。この連載では、映像にまつわるモノや事象を、この道のプロ2人に案内してもらいながら、ムズカシイ映像技術の話を少しでもやさしく紹介。読んでくださっているデザイナーのみなさまの空間演出に、少しでも役立てていただきたいと考えております。

(アマチュア司会者本誌中田昌幸)


西雄基TakekiNishi
光和レンタル営業部イベント2課課長

1970年東京生まれ。
1991年KOWA入社。
1992年からコンサートツアーやステージでの映像オペレーションを手掛ける。
企業イベントや展示会など幅広く、システムプランニングからオペレーションまで担当。


石丸隆TakashiIshimaru
シーマ常務取締役

1969年名古屋生まれ。
1990年シーマ入社。
ビジュアルオペレーターからセールスエンジニアを経て管理職へ。
主に企業式典や展示会はじめあらゆる分野の現場を担当。
2009年より現職。実務経験を活かし、多方面での商材提案や業界の拡大に注力している。

 

はじめにビデオスイッチャー講座

――今回はライブなどの現場に欠かせない、スイッチャーです。

西 最初から難しいモノを(笑)

――そもそもスイッチャーって何ですか。

石丸 今回紹介するのは、正確に言うとビデオスイッチャー。ビデオミキサーとも言う。簡単に言ってしまうと、ビデオ信号の切り替えを行う装置です。たとえば、甲子園のバックスクリーンの大画面をイメージしてください。あれにはいろんなコンテンツが映し出されます。選手一人ひとりの紹介映像や、リアルタイムにピッチャーやバッターのプレイを映したり、リプレイしたり、スタンドの観客のアップを抜いたり、マスコットやチアガールが踊っているときはそれに合わせたアニメ映像が流れたり、他球場の途中経過とかCMとかいろんな案内ごとを映したりもする。これらの映像コンテンツを瞬時に切り替えて、あの大画面に送っているのがビデオスイッチャーです。

――なんだ簡単じゃん、って思ってしまいますけど。

石丸 観客が観ている画面だけならそう見える。でも球場では何台ものカメラが違う場面を撮ってる。どのカメラの映像をどのタイミングで大画面に映すのか。選手紹介の映像は準備された素材で、それが登場する選手の数だけ存在する。この映像はDVDとかブルーレイとかハードディスクに入っているのかな?他球場の途中経過は、たぶんパソコンを通してリアルタイムの情報をインプット、アウトプットしているのでしょう。これらが全部ビデオスイッチャーにつながっていて、それを一人とか時には複数のオペレーターが操作している。そして、テレビカメラ、DVD、パソコンの映像はそれぞれ違う映像信号でつくられている。

――コンセントのカタチが違う。

石丸 まあ、その違いでもいい。その違う接続端子をまとめて引き受けて、大画面に繋いで、画面を切り替えているのがスイッチャーとイメージしてもらえば。

――スイッチャーの中ではものすごく複雑な処理が行われているのですね。

西 そうなんです。コンサートなどの現場では、音響チームや照明チームもいわゆる専用のスイッチャーを使ってステージ演出をコントロールしています。台本とお互いの演出を理解して見計らいながら、それぞれが絶妙なタイミングで切り替え作業を行っています。何れのカテゴリーにおいても、複数のコンテンツをコントロールする場面で、なくてはならない装置です。

――そのひとつが、このローランド「V-1SDI」ですね。僕はもっとばかでかい機械を想像していたのですが・・・

西 そう、このサイズがまず、すごいことなんです。もちろんスイッチャーにはアマチュアが使用する数万円のモノから、大型イベントなどで使う数千万円以上の機材もあります。ローランドはエントリーモデルからハイエンドモデルまで、ラインナップが広く懐が深い。その中でこのV-1SDIは、エントリーモデルのサイズと使い勝手の良さを持ちながら、プロの現場で扱う放送規格の信号にも対応した新製品ですので、ユーザーにとって守備範囲の広い機器と言えます。

――ではいよいよこのV-1SDIを斬ってみましょうか。

小さなボディに驚きの性能

――まずはメーカーであるローランドさんに、V-1SDIの製品説明をしていただきます。

ローランド担当者(以下R) 最大の特徴は、この小型ボディでプロ仕様の規格に対応したことです。幅が313㎜でハーフA4サイズと呼んでいます。実は昨年11月に発売した「V-1HD」という製品がありまして、これがたいへん好評で・・・

――同じカタチですね。

 はい、見かけはほぼ同じなんです。ただV-1HDは、コンシューマをターゲットに作った製品だったので、西さんはじめ映像業界のみなさまからは「これをプロ仕様にせよ」という要望がたくさんございまして、それが実現したのが、今回のV-1SDIなんです。

――プロ仕様というのは。

 まず3G-SDI(※1)という、放送用カメラの映像信号が入力できるようになりました。ライブやイベント会場では当然、プロ用のカメラを使いますので、西さんたちは、これが入力できないと困るんです。装置の背面を見てください(上図参照)。真ん中辺りに①~④とあるのが入力端子です。①と②が3G-SDI専用の入力端子で、ここにプロ用のテレビカメラを繋ぐことになります。端的に言えば、この入力端子を備えたことが、V-1SDIの最大の特徴ということになります。③は3G-SDIとHDMI(※2)とありますが、どちらかひとつを選んで入力します。ちなみにHDMI端子には、民生用のビデオカメラやPC、ブルーレイプレイヤー、タブレットなどいろんな機器が接続できます。そして④はHDMI専用の端子になります。この④には、スケーラー(※3)を内蔵しました。また、DownStreamKeyer(DSK)(※4)の機能も付けまして、画面演出が多彩になったことなどがウリになります。

――難しい言葉は文末の用語解説をご覧ください。さて、西さんいかがですか。

西 いまさらっと説明したけど、③の入力端子が3G-SDIとHDMIを選べるというのは、現場の事情を考慮してくれてすごく助かるんです。ほとんどの現場ではPCが必要になるので、④の入力にはPCを接続することが多くなります。そのうえで、ブルーレイとかタブレット、2台目のPCなどの接続先があるっていうフレキシブルさってイベントの現場では重要なんです。特にDSKの機能はとても嬉しいです。また、僕のリクエストどおり、独立したボタンで操作できるのがいいですね。

石丸 もし③の入力が3G-SDIだけだったら、④にPCを接続した後に、お客さんがブルーレイを持ってきたら対応できない。逆に③がHDMIだけだったら、現場のカメラは2台しか動かせなくなる。があれば、どっちが来ても大丈夫ですよということになる。同時に来てもいいし、選べるから、すごくいい。

――何がつなげられるかだけでなく、どうつなげられるかも大事なんですね。ほかに評価できることはありますか。

西 このスイッチャーにつないだ4つの映像を1台のモニタに同時に表示できるのが便利ですね。この機能をマルチプレビューといいますが、こういう小型のスイッチャーではなかなかそういう機能がなくて、今まではプレビュー用モニタが4台必要だった。さらに、会場の大画面に出している映像を監視する「プログラム画面」と呼んでいるモニタも入れれば、全部で5台のモニタが必要だった。V-1SDIは、マルチプレビューの画面のうち、お客さんが観ているプログラム画面が、タリーと呼ぶ赤い枠で囲まれていて、次にスイッチングしたときに切り替わる画面は緑のワクで囲んで表示しているんです。4つの映像を一度に見ながら、会場の大画面に、次に出す画面をリアルタイムに決めていくことができるって、僕らにとってはとても重要なことです。もちろん、大型のスイッチャーなら普通にできますよ。それをこんな小さなスイッチャーができるってすごいことなんです。

パネルロックとスケーラーは見事

――石丸さんはどうですか。

石丸 パネルロック機能が付いているのは親切。ここまで小さいと、普通の人でも抵抗感なくいじれると思うんです。たとえば展示会のブースでMCがプレゼンテーションをするときに、PowerPointの資料を見せながら、途中にテレビ会議みたいに本社や工場を会場と中継でつないだり、VTRを流したりってありますよね。この切り替えをMCの方が自分のタイミングでポン、ポンって簡単にできると思います。そのときに、ボタンを間違えて押してしまっても反応しないようにするのがパネルロック機能。これで、安心してスイッチャーを操作してもらえる。この大きさなら、MC台にも置けるから使い勝手もいいですよね。だから裏で僕らが操作する必要がない。つまりプロのオペレーターが一人必要なくなるわけで、その分のコストが浮くということです。とても画期的で、いちばんポイントの高い部分だと思います。

――スケーラーって何ですか。

 いろんな解像度の映像フォーマットを的確な画面サイズにして表示する機能と言えばいいでしょうか。たとえば今このV-1SDIには、SDI端子の①、②、③にはフルハイビジョン、つまり1920×1080の解像度のフォーマットが表示されています。ビデオカメラの場合は統一されているので問題はないんです。ただPCとかの場合は必ずしも同じではなくて、メーカーとかスマホやタブレットによってフォーマットが違うんです。この④の入力にスケーラーを搭載したことによって、さまざまな映像フォーマットを受けることができ、それを自動または任意に画面サイズを調整して映し出すことができるんです。

石丸 ズームとか縦横のリサイズとか、自由に画面のサイズを変更してそれを出力することができるということ。スケーリングと言います。これがあるとないとでは、現場の対応力が全然違う。

西 スイッチャーのクオリティとコストが最も反映されるのがスケーラー。スケーラーの数や性能がスイッチャーの評価と言ってもいいくらい。だからメーカーも最もコストが掛かる部分でもある。大きなスイッチャーはスケーラーの数も性能も充実している。値段も100万円どころじゃない。V-1SDIは1つとはいえ、このサイズの中にスケーラーを搭載したのは見事です。

――では、V-1SDIへの要望を

西 マルチビューの機能は良いんですが、横並びの方がいいですね。田の字って直感的に場所がわかりづらいんです。横に並んだモニタの左から1~4というレイアウトが普通なんです。ボタンだってその通りに並んでるでしょ。

石丸 モニタを見ているだけの進行さんがいて「1カメお願いします」とかなら関係ないけど、オペレーターが複数のことを同時にやろうとしたら、どうしても数テンポ遅れちゃう。コンマ何秒の差だけど大きい。

――すごい世界です。ほかにありますか。

西 MIDI(※5)の端子がなくなったけど使えないの?

 USB端子を使ってMIDIの機能は使えます。

西 よかった。MIDIキーボードをローランドの機器に接続して映像をコントロールしたり、楽器と映像をシンクロさせたりできるのが便利なんです。ローランドは、MIDIさえあれば一度にいろんな機器を同時に動かせる。僕はスイッチャーやハードディスクプレイヤーを一度に鍵盤で操作するのが好きなんです。音モノの現場ではローランド製品は操作性がいいですから。

——鍵盤で操作?

石丸 できますよ。MIDIでつなげば鍵盤で映像を切り替えられるんです。僕、昔現場で初めて西さんに会ったとき「何でこの人鍵盤で操作してるんだろ?不思議〜」って思ったもん。でもやってみるとこの方が操作しやすい(笑)

――ますます難しい話になってきた(笑)

スイッチひとつの重み

――機材の進化はすごいですね。

石丸 機材のコンパクト化や性能の向上は、まさにデジタル化の恩恵です。アナログの時代には、こんなに小さくなるなんて考えられなかったし、性能や操作性も大きく変わりました。

――それはいい意味で。

石丸 一定の操作や品質を保つには簡単になったと思います。それは間違いない。ただ、操作が簡単になった分、機能がたくさん出てきたので、求められるオペレーターの能力は時代と共にどんどん高くなっています。アナログのスイッチャーは複雑に見えて、基本ひとつのスイッチにはひとつの機能しかないから、身体で覚えられたんです。これ(V-1SDI)はシンプルに見えるけど、同じボタンの中に複数の機能が入っていたり、組み合わせるとまた違う機能が使えたりと、実はとても複雑な機械なんです。それが大型のスイッチャーになったらどれだけ?ってなる。デジタルが出始めた頃は、現場の仕事がさぞかし楽になるものと思っていたけど、とんでもなかった(笑)

西 昔の大変さと今の大変さは違いますよね。どっちがいいかって差はないと思う。たしかに今は、ある程度ソフトウェアのスキルがないとオペレーターとしてやっていけない。機械のスキルはそれなりでいいんです。メーカーの違いもだいたい統一されてフラットになった。アナログのスイッチャーは、機械の中を開けると基盤に調整項目があって、ドライバーなどでそれをいじって調整してたんです。

石丸 あったな~。

西 懐かしいよね。ケーブルもアナログ世代は長さによって色の誤差やノイズが出たりしたんです。ここを解決して、そういう調整もして、はじめてきれいな画面がつくれた。満足感も高かったです。以前は機械的なスキルがないと、キチンと映像を出すことすらできなかった。今のデジタル機器とはまったく違います。

――そういう経験のない時代になったんですね。

石丸 どっちがいいという話ではないです。いつの時代もオペレーターの価値は現場にしかない。音響や照明と卓を並べて、協力しながらも映像だけの魅せどころがあって、それを自在にコントロールする喜びがあります。経験を重ねて技術を培って、それをノウハウとして活かしていくことがオペレーターの誇りになります。それは現場でしか経験できないし培うことはできません。

西 何万人のお客さんが、僕が1個のボタンを押すタイミングで沸くんです。その醍醐味は、寝ないで働いていても疲れが一気に吹っ飛ぶくらい大きい。

――自分の手元の操作で何万人の観客が沸くってすごいことです。

西 でも間違えてもすべて自分の責任です。映像はお客さんにもミスがわかりやすいから(笑)。そのプレッシャーに耐えられる精神力も必要ですね。

――おっかない仕事です。

西 だから緊張で叩けなくなってしまうスタッフもいるんです。僕だって今でも緊張する。そこを乗り越えて、お客さんの喜んだ顔を見て、だんだん楽しくなっていくんです。緊張感からアドレナリンが出るんでしょうね。ステージから目を離さず、周りの音を聞いて、照明の明るさを感じて、出演者の動きを頭に入れながら、時にはアドリブも利かせてスイッチを叩くんです。生のステージでは何が起こるかわかりません。そして上手にオペレーションができたときの充実感は、言葉では説明できません。

石丸 1個のボタンの重みだよね。

西 台本通りや監督の指示通りにボタンを押すだけなら誰だってできるんです。でもそのボタンの重さは、プロが叩くのとバイトくんが叩くのでは全然違う。そこが僕らがお金をもらってるところだから、きっと。

――スイッチャーのボタンには、みなさまにしかわからない魅力とプレッシャーが乗っかっているんですね。


ちなみにローランドのビデオスイッチャーのハイエンドモデルがこちら。コントロール部分とサーバ部分が別々で、見るからに複雑で高性能っぽいですね。お値段(希望小売価格)も2つ合わせて180万円と立派

〈今日の専門用語〉※1※2※3※4※5

SDI(SerialDigitalInterface):ビデオ信号伝送規格のひとつ。標準画質の非圧縮デジタル映像とデジタル音声をBNCコネクタと同軸ケーブル1本で伝送できる。主として業務用ビデオ機器に採用される。

HDMI(High-DefinitionMultimediaInterface):高精細度マルチメディアインターフェース。映像・音声をデジタル信号で伝送する通信インタフェースの標準規格である。スケーラー(Scaler):解釈は様々だが、一般的には複数の解像度やソースを統一したフレームワークにフィッティングさせる機能。これによりあらゆる映像ソースを統一的に調整(スケーリング)できる。

DownStreamKeyer(DSK):すでにエフェクトをかけたり合成が行われている映像に、さらに画像や文字を合成する機能のこと。画像処理の流れの中で最も下流(ダウンストリーム)で行われるため、ダウンストリームキーと呼ばれている。

MIDI(MusicalInstrumentsDigitalInterface):電子楽器の演奏データを機器間でデジタル転送するための世界共通規格。

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